2018年1月22日月曜日

記号としての「経済学」

 手品というのは、種明かしをさせられると、観客はそれ以降はその種明かしの導線でしか手品が見えなくなります。つまり、手品を記号化という別の次元に落とすわけです。それを承知で巧妙な手品師は必ず種明かしを公表した後で、実は手品の中にもう1つのマジックを潜り込ませることによって、記号化をマジックへと再転化させます。

 よくある学内試験用の経済学の問題で、問題文の中にまったく関係がない式や言葉を入れると、多くの受験生が初めて見た式や言葉につまづき、大きく正答率が下がるというものがあります。
 実際に、まったく関係がない言葉や式なので解答には必要ないし無視すればよいのだけどそういった教育を受けてこなかったら最後まで悩んで試験時間は終了してしまうでしょう。こうした言葉の挿入、つまり「プラスの呪縛」で正答率をコントロールするのは男性的ですが、同様に、肝心な言葉をあえて省く、言葉の脱落という「マイナスの呪縛」があります。
 「マイナスの呪縛」とは、その言葉を聞くと、それ以降はその言葉でしか見えなくなる、だからあえてその言葉は記述しない、まさに樋口一葉の世界観で、言葉を脱落させているから、そこに読者が言葉を埋めようとして社会性が産出されるのです。恋なんて一言も記述する必要はないのです。

 実は、『らくらくマクロ』はケインズ経済学を語っているのに、1度も『ショートサイド原理』という言葉を記述していないのです。あえて、その言葉を意識的に脱落させることによって、無理やりショートサイド原理なんだと説得させることが、表現を豊かにさせました。
 一見、へんな解き方をしている!?というように見えるところもありますが、ショートサイド原理を極力活かしているので辻褄が合うはずです。